先入観の作られ方
- Masaki Kato
- 2024年11月29日
- 読了時間: 8分
更新日:2024年12月2日

「1日に3万回以上。」
この数字は、人が脳内で行っている選択と判断の数である。
人は1日にこれだけ多くの選択や判断を繰り返しているが、その中でじっくり考えて決めている物事はいくつあるのだろうか。
仕事の後にビールを開けて飲んだり、クリスマスにはケーキやフライドチキン、ピザを食べたり、結婚をするとなったら指輪を買ったり、結婚情報誌を見て式場を決めたり...。
さりげない消費と行動は頭の中で、どう判断されているか不思議に思ったことがある。
心理学によると、大半の選択と判断は私たちの脳内にある過去の経験や周りの情報などを基に、自動的に繰り返されている。
その際、人は頭のなかのショートカット「ヒューリスティック」という思考回路を活用している。
そして、私たちの周りに溢れているメディアはこのヒューリスティックと大きく関係し、知らぬ間に購買行動や印象に大きな影響を与えているらしい。
本ブログでは、メディア心理学にてよく触れられるヒューリスティックの基礎知識とメディアが作りだす先入観について紹介する。
読み終えた時に少しでも、
普段の生活における選択と判断においての気づき
マーケターにとってターゲットへ興味を沸かせるメッセージングを考えるきっかけ
へ結びつけてもらえれば幸いだ。
ヒューリスティックとマーケター
まず前提として、私たちは物事を判断するときに、以下が頭の中で審査される。
自分にとって判断する物事の関係性が高いかどうか
様々な情報を入手して、判断するモチベーションがあるか
判断する物事に対し関係性やモチベーションが高い場合、人は時間を費やして能動的にリサーチを行い、買う/買わない、やる/やらないを決める傾向にあり、この思考処理のことを「システマティック処理」という。(古くからはCentral Thinking Routeとも呼ばれている)
反対に、自分自身にとって関係性が薄かったり興味やモチベーションが低い場合は、自分の脳内に蓄積されている手がかりを利用して、即座に判断を行っている。
これが、「ヒューリスティック処理」(Peripheral Route)である。
簡単に説明すると、複雑なトピックや興味ないことに関しては、世間で言われていることやメディアで見た情報通りに従事してしまうのだ。
ヒューリスティックは、普段の生活の中にたくさん転がっているのだが、パターンをいくつか紹介する(参考:Gemini)
感情ヒューリスティック: 感情的な反応に基づいて判断する傾向( 例:好きなブランドの商品であれば、品質が良いと感じる)
固定観念ヒューリスティック: 社会的な固定観念に基づいて判断する傾向(例:男性は女性よりも数学が得意であると考える)
利用可能性ヒューリスティック: 最近起きた出来事や、記憶に残りやすい出来事を基に判断する傾向( 例:飛行機事故のニュースを見た直後は、飛行機に乗ることを避ける)
代表性ヒューリスティック: 特定のカテゴリーに属する典型的なイメージに基づいて判断する傾向(例:高価な商品は高品質であると考える)
このヒューリスティックを巧みに利用しているのが、マーケターである。
前段で書いていた、帰ったらビールを飲む、クリスマスの恒例行事、結婚する=指輪を買う+結婚式をする、ということは本当はやらなくても良い習慣である。
むしろ健康やコストパフォーマンスに対してはマイナスと捉えることもできる。
私たちが無意識に当たり前だと判断して取ってしまうこれらの行動は、マーケターが長くメディアと広告を活用し、「憧れ」や「楽しさ」のテンプレートをイメージ付けた結果である。
文化として根付いてしまえば、消費することは常識化され自動的に売り上げにつながっていくのだ。
ヒューリスティックを使ったアウトプットは浅はかになりやすい
ヒューリスティックを多用する思考処理は、アウトプット(結果)の違いにも影響していると私は考えている。
例えば、料理好きの人と全く料理をしたことない人に、おいしいハンバーグを用意してもらいたいという依頼をしたとする。
この二人は美味しいハンバーグを作るためにどのように動くのか、予想してみてほしい。

料理好きであれば、美味しいハンバーグを作るために食材や調味料をはじめ、調理温度、フライパンなどの調理器具、食器など、ハンバーグのおいしさをより追求するのに必要な情報を追加で集め、理解しながら調理を進めていくだろう。
反対に、全く料理をしない人は「簡単 美味しい ハンバーグ」と検索し、レシピに書いてある食材をスーパーで集めレシピ通りの工程で調理し、ハンバーグを作ることだけにただ集中するのではないだろうか。
個人→人・モノ・コトに対する興味や関係性、モチベーションが高ければ高いほど、アウトプットをよくする・知れる情報を追い求め脳内で覚え続けていくし、興味がなければその場を切り抜けるだけの情報をリサーチするだけで終わってしまう。
これが、システマティック処理とヒューリスティック処理における差であり、システマティック処理を意識することがアウトプットの質が向上することに繋がるのである。
メディアが作り出すヒューリスティックと先入観
メディアは、個人がまだ出くわしたことのない人・モノ・コトのイメージづくりをする役割がある。
そして、私たちも何か新しい物事を始める時には、メディアを通して事前にリサーチをしたがってしまう。(特に日本文化は不確実性の回避が強い国のためこの行為が常識化されている)
しかし、メディアコンテンツの主流が短尺コンテンツとなっている昨今において、メディアだけで得た情報で先入観が作られてしまうと、本質を捉えられないリスクがある。
なぜならば、メディアは収入や安定した関係性を得るためにも、View数やクリック数、スポンサーや政府への配慮を仕切ってメッセージを打ち出しているからである。
メディアコミュニケーションについて一例をあげると、以下が基礎として使われている。
Fear Appeal: 恐怖を作りだすメッセージングほど、受信者の購買を高める効果が高い
Framing:見出しだけを読んで、意見や感情を想起させるメッセージング
Agenda Setting:ニュースの取り上げる順番などは、視聴率などもかんがみて、事前に構成している
配慮されて打ち出されてしまった情報は、メディアにとっては無害であるが、見てしまった人に無意識に知識として蓄積され、それはやがてヒューリスティック処理において活用されてしまう、と私は考えている。
だからこそ、メディアから発信される情報をただ受け取ることはせず、「その情報について多方面の視点から読み解き深く理解することを習慣付ける」 = 「システマティック処理」を用いて自分自身の意見や判断を下すことが重要である。
先入観のほどき方
アルゴリズムを用いたサーチエンジンで大多数の意見がキーワードの上部に出てくる今、多くの人・モノ・コトを体験する際には、先入観とバイアスをもって観察してしまう時代になっている。
色眼鏡をかけたうえで見た情報というのは、真実と大きく異なった内容で記憶されるだけではなく、自分自身の脳内に蓄積され続けることにより、無意識にヒューリスティック処理に活用されてしまう可能性がある。
多くの情報がさまざまなメディアを通して簡単に入手できるからこそ、情報を深く読み理解し、様々な視点や経験を基に判断を下せる人(Systematic Thinker/Central Thinker)になることが重要であり、自分自身の思考プロセスを守るためにも必要性を感じる。
では、「先入観をほどく」 = 「システマティック処理を活用する」方法について紹介しよう。
下記のように、先入観に頼らず情報を得るための思考プロセスを意識できれば、何がヒューリスティックの素につながるのか理解することができ、システマティック処理を上手に活用できる。
自分自身で疑問に思っていること、知りたいこと、世の中でよく聞くイメージをリサーチ前に書き出す
リサーチをするときは、一つの情報元だけではなく、自分の意見に反した情報も見ることで、Confirmation Biasをなるべく減らす
ネットの情報だけでなく、人に話を聞いてみたり、違うメディアを活用してみる
過去の経験を一度捨てて、また新たに経験をしてみる(昔よくやっていた作業を久しぶりやってみると、また視点や気づきが変わっているケースも多くあるはずだ)
早く考えて決断することも大切だが、時には立ち止まり自分の思考プロセスに集中し意識することは、情報源や根拠を吟味でき、より客観的な判断を下せるいい機会にもなる。
呼吸に意識を向けることと同じく、普段気にしていなかった選択と判断に意識を置くことで、自分自身の思考のクセを認識し、情報に惑わされることなく主体的に判断できるようになることが望ましいのだろう。
Key Takeaways
さりげない消費と行動にはヒューリスティックという思考回路が働き、この処理には先入観が用いられる
先入観は日常で触れるメディアによって形成されるものがほとんどであり、本質を捉えられないリスクがある
思考・行動をする際は、先入観をほどくことが重要であり、「システマティック処理を用いて判断できるようになること」 = 「Systematic Thinkerになること」が重要
参照元:
/https://agipubs.faculty.ucdavis.edu/wp-content/uploads/sites/212/2015/03/Chaiken-Ledgerwood-in-press.pdf
"Epi #20: The Science of Heuristics in Marketing"
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